筆者
深井克純
元JICA国際協力機構パキスタン事務所アフガニスタン支援班班長(中野市西町出身)
アフガニスタン復興支援A
忘れてはいけないアフガニスタン
イラク報道中心のマスコミ・・・熱しやすく冷めやすい日本人

<戦乱の山岳国>
 日本人の最も悪いところは「熱しやすく冷めやすい」ことだ。今、書店の国際関係分野の書棚を見れば、ほとんどイラク問題に関する書物だけが置かれている。日本が国際社会の先頭に立って復興支援活動に最大限の努力を傾注しているアフガニスタン問題は、既に忘却の彼方に忘れ去られたような感すらある。

 イラク問題は国際社会のみならず、日本社会にも多大な影響を与えた。今回の人質問題はその最たるものだ。「自己責任」という言葉が、これほどマスコミに現れたことは余りない。様々な立場でいろいろな意見が出されているが、イラクで人質にされた邦人が無事解放されて安心したということでいいのではないのか。

 私は三年半にわたって、パキスタンの首都イスラマバードでの勤務を経験した。また、九・一一とその後のアフガン空爆、アフガン復興支援の現場を最も近くで目にした。その際に、日本から救援のためにパキスタン国境、アフガニスタンに入国する日本の若い人々(主にNGO活動家)やフリージャーナリストの人々に会うことも珍しくなかった。いずれも軽装で、現地の邦人から見れば「無謀」と思われる陸路でのアフガン入国を目指す人々が多かった。

 この状況はイラクの首都バグダットに隣国ヨルダンの首都アンマンから一○○○キロの陸路移動を試みて人質にとられた三人の日本人の状況に酷似する。パキスタン・アフガニスタン国境は、四千・五千メートルの高山が聳え立つ険しい地域だ。しかも、イラクの部族社会をはるかに超える部族社会だ。パキスタン政府の統治が及ばない特別なエリアだ。日本人がこのトライバル地域(部族地域)に入るには、政府の特別の許可を得て、武装警官の警護をつけなければならない。ここに丸腰で現地事情に疎い若い日本人が入ることは「自殺行為」だ。

 外務省は世界各国の海外安全情報を国民に提供している。これは現地大使館や信頼できる安全情報会社などあらゆる媒体から集められたもので、信頼性は高い。最も危険度の高いカテゴリーが「退避勧告」である。退避勧告が出ている国は、イラクやアフガニスタン(一部都市地域を除く)など戦争状態にあるか、戦争状態に近い国々ばかりだ。

 退避勧告の出ている国には、政府の用務といえども、原則出張できない。もしジャーナリストなどで退避勧告の出ている危険国に行かなければならない場合には、最大限の安全配慮が義務になる。イラクで人質になった邦人が、この安全配慮義務を最大限行ったかどうか?報道やNGO活動の自由を制限することはできない。どのような状況にあっても、自分の身は自分で守ることを徹底的にやって欲しい。

 イラクはメソポタミア文明の発祥地だ。チグリス・ユーフラテス川に挟まれた地帯は、農業的にも豊かな所だ。イラクは世界トップクラスの産油国で、政府がしっかり機能すれば貧しい国ではない。

 イラクに対しアフガニスタンは本当に貧しい国だ。二○年以上内戦状態にあり、ほとんどの政府機能や経済機能が失われた。一人当たりの国民所得も、どのぐらいか把握できない。年二○○ドルは上回らないだろう。

 日本のODAやNGOの支援の形が少しずつ目に見えてきている。小中学校、病院、道路など日本の援助で整備されつつある。世界で最も貧しいアジアの国アフガニスタン。復興には一○年二○年の年月がかかろう。イラク問題ばかりがマスコミを賑わす状況は正しくない。アフガニスタンの窮状を忘れないで欲しい。

写真上=「アフガニスタンのパン屋さん」
−アフガニスタン・ナンはインドのものとは違う。ほかほかは絶品だ−
写真下=「にぎわいを取り戻しつつあるカブールの街」
−お土産品の立ち並ぶ、“チキンストリート”

                                

(北信タイムス2004年6月4日)
 
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