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筆者 深井克純 元JICA国際協力機構パキスタン事務所アフガニスタン支援班班長(中野市西町出身) |
| 番外編 求められるグッドガバナンス 途上国経験から故郷へ送る |
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初めて滞在した西アフリカのガーナで、ショッキングな体験をした。首都から車で三○時間、最後の五?六時間は、トラックの荷台に多くの黒人と立ったままで、揺れに揺られて着いたサバンナの小村。農村調査の指導中、地元の少年たちと仲良くなった。 「どこから来たの?」、「日本から」と答えると、「スイスの隣にある国だよね」と物知り顔で少年が言った。外国人が訪れることのないアフリカの僻地にも、スイスの援助関係者が来訪したことがあったのだろう。素朴なガーナ少年にとって、スイスも日本も遠い自分の知らない国という点では、違いがなかったのだ。 その後、シリア、イラン、パキスタン、アフガニスタンなど多くの開発途上国で仕事をした。ほとんど日本という国は知られていない。知識層は知っていても、一般の人は知らない。さみしい限りだが、これが現実である。 二 世界のフィールドから見ると、現代日本人は萎縮しているように感じる。幕末・明治のはじめ、西洋知識の吸収に海外飛雄した日本人のもつ開拓者精神も勇気も無縁に見える。先人のスケールの大きさは、今の日本人にはない。 信州人も例外ではない。近代日本の行末を透徹した目で見据えた佐久間象山。われわれと同じ山や川を見て育った象山先生は、海外に出る機会はなかった。しかし、書物を丹念にひもとき自らの「世界観」を確立した。日本を植民地化から救った慧眼(けいがん)は、象山先生の猛勉強の成果だった。 はやりの言葉「国際人」‐少しばかり英語が上手で、海外経験のある日本人‐これこそ真の「国際人」から最も遠い存在だ。必要なことは、海外経験より象山先生のように書物からであっても、正しい「世界観」を身につけることである。途上国の多くのリーダーに接した経験から、現在の信州のリーダーたちの「世界観」欠如が、嘆かわしい限りだと感じる。 三 佐久間象山を挙げるまでもなく、信州は良質な知的人材を輩出することだけが誇りの地域だった。つまり、「教育」だけが資源の県だった。正に、無資源国・日本の唯一の資源が「人材」であるように、信州にとって「教育力」だけが唯一の資源だった。 信州の教育力が極度に落ち込んで久しい。今の長野の子供たちは勉強しなくなったと嘆く大人が多い。 子供こそ、われわれ大人の姿をリアルに映し出す鏡だ。二世代前の信州人に比べ、自分も含め、今の信州の教師も行政マンも銀行員も勉強しなくなった。とりわけ、人々から信任を受け(票をもらって)公職につく政治家、議員が勉強していない(全てとはいわないが)。 信州全体の読書力、知的レベルが劇的というほどに低下した。大人たち、とりわけ地域のリーダーたちには、古き信州人のように「猛勉強」して欲しい。所詮、子供の姿は大人社会の縮図である。信州教育を憂うるなら、まず大人たち、リーダーと自認する人々が率先垂範して学ぶ姿勢を示さなければならない。
開発途上国への国際協力の中で「グッド・ガバナンス」支援が重要になっている。「グッド・ガバナンス」とは「良い統治」と訳される。クーデターやテロ事件の頻発する開発途上国には、何よりも「良い統治」が求められる。システムとしての「良い政府」が不可欠である。 パキスタン財務省時代に、ムシャラフ現大統領(当時は陸軍参謀長)の軍事クーデターに遭遇した。軍事力で政権を奪取した正当性の薄い政権だ。 しかし、ムシャラフ行政長官(軍事政権の臨時大統領職)は二四時間、三六五日、ほとんど大統領府を空けることなく国家と国民の生命・財産と安全を守るため粉骨砕身している。トップリーダーが国を空けるのは、外交上の必要最低限の場合に限られる。 ムシャラフ大統領は当初選挙によらず政権を奪った。しかし、正しい「世界観」と「歴史観」をもったトップリーダーであることは間違いない。国や県・市町村のトップリーダーとは、統治範囲の広狭はあっても、正しい世界観と歴史観をもった人でなければならない。日常的に誰よりも勉強しなければならないと言い換えることもできる。 五 三年半の海外勤務を終えて帰った故郷の姿は無残だった。「グッド・ガバナンス」が決定的に欠落していた。地域のリーダーが「地域」にいない。ネポティズム、幇間(ほうかん)、宦官(かんがん)が横行・跋扈(ばっこ)する。私には、こんな悲惨な状況に見える。アフリカの独裁国家もアジアの軍事政権も経験してきたが、これほど統治能力の落ちた状況を目にするのは初めてだ。 その程度ならまだしも、地域の「秩序」を護るべき職責にある者が秩序を撹乱する光景を見るに及んで、背筋が寒くなった。地雷が埋め尽くされたアフガニスタンの旧王宮跡に一人立った時の、何倍もの寒気を感じた。 開発途上国、とりわけ地方政府の「グッド・ガバナンス」支援が重要になり、日本はこの分野で大きく貢献している。故郷長野は世界の「グッド・ガバナンス」のモデルを提供する地域であって欲しい。長い開発途上国経験から、故郷に送る二○○五年新春のメッセージである。
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| (北信タイムス2005年1月1日) |
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